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J-BeautyとK-Beautyの逆転現象 — 日本化粧品輸出38%減と韓国記録更新が示す業界地殻変動

日本の化粧品輸出が2021年ピーク比38%減に沈む一方、韓国は2024年に102億ドルの記録を達成。資生堂・花王とアモーレパシフィックの戦略比較から、中国過依存脱却を迫られる日本コスメの課題を読む。

山口 賢一郎編集長 / 企業・産業担当

はじめに

日本の化粧品産業が岐路に立っている。日本化粧品工業連合会(JCIA)のデータによれば、日本の化粧品輸出額は2021年に6,839億円のピークを記録した後、2024年には4,229億円まで急落し、わずか3年間で約38%の減少を見せた [6]。その間、隣国・韓国の化粧品輸出は2024年に102億ドル(前年比20.6%増)と記録を塗り替え、対照的な軌跡を描いた [4]。

化粧品産業のアジア覇権をめぐる競争は、かつてのような「日本優位」の単純な構図では語れない段階に入っている。J-Beauty(日本流美容)とK-Beauty(韓国流美容)という2つのモデルが異なる路線でグローバル市場を争い、そこに急成長するCビューティー(中国系美容ブランド)が参入している。本稿では、資生堂・花王を代表とする日本勢とアモーレパシフィックを代表とする韓国勢の戦略を比較しながら、日本コスメが直面する構造課題と反転の可能性を検討する。

日本の化粧品ソフトパワーについては日本のソフトパワーと文化輸出の逆説も参照されたい。

J-Beautyの構造

J-Beautyの哲学と強み

J-Beautyが世界の消費者に訴求してきた核心は「引き算の美学」にある。スキンケアにおける保湿・紫外線対策・エイジングケアの3軸を科学的エビデンスで裏付け、長期的な肌改善を重視するアプローチだ。日本独自の「成分を足し算するのではなく、肌に必要なものだけを与える」という発想は、特に30〜50代の消費者に広く受け入れられてきた。

資生堂はこの哲学の最も代表的な担い手だ。中期戦略「SHIFT 2025 and Beyond」において、プレステージ領域(資生堂ブランド・クレ・ド・ポー ボーテ・ベアミネラルの3本柱)への集中投資を掲げ、グローバルで年間売上成長率8%(2023〜2025年CAGR)、コア営業利益率15%(2027年)を目標に据えている [1]。2025年第1四半期は日本・EMEA・アジア太平洋が堅調に推移し、収益力回復の兆しを示している [1]。

花王もグローバル展開を加速している。2025年の連結売上は前年比3.7%増加し、スキンケアブランド「Curel(キュレル)」、プロフェッショナルヘアケア「Oribe」、デイリースキンケア「Biore(ビオレ)」が成長を牽引した [2]。2025年6月にはメイクアップブランド「KATE」の海外展開を本格化させ、アジアを中心にグローバルフットプリントを拡大している [5]。

日本コスメの強みは製造品質の高さにも由来する。「メイド・イン・ジャパン」のブランド価値は特にアジア圏の中間所得層に支持され、高付加価値商品でのポジショニングを可能にしてきた。資生堂はEコマース売上の3倍増計画を掲げ、デジタル接点での優位性確立も目指している [1]。

J-Beautyのメリット・デメリット

J-Beautyの最大の強みは長期R&D投資に裏付けられた科学的信頼性だ。資生堂は世界6か国に研究開発拠点を設け、皮膚科学・バイオテクノロジー・データサイエンスを組み合わせた製品開発を推進している。「肌の健康を科学する」という訴求は医師・皮膚科専門家からの支持を得やすく、デルマコスメ(皮膚科学系化粧品)カテゴリーでの評価が高い。

一方、構造的な弱点として中国市場への過度な依存が顕在化している [6]。2022年以降の中国景気減速、消費者の「国潮(グォチャオ)」意識の高まり(国産ブランドへの回帰)、さらには中国市場特有の動物実験規制問題が重なり、日本ブランドの中国向け輸出は大幅に減少した。資生堂も2024年に中国事業の構造改革を余儀なくされた。

もう一つの課題は製品開発サイクルの長さだ。日本のQC(品質管理)基準に基づく18〜24か月の開発プロセスは品質面では優位だが、SNS主導のトレンドが短命化する現代の消費者行動への対応では後れを取りやすい。「バイラル成分」「TikTok映えする使用感」への即応力では韓国勢に劣る。

K-Beautyの台頭

K-Beautyのエコシステムと強み

K-Beautyの最大の特徴は垂直統合型ではなくODM(Original Design Manufacturing)エコシステムにある。コスマックス(Cosmax)やコ스バーグ(Kolmar Korea)などの大型ODM企業が独立ブランドに製品開発・製造を提供するため、新興ブランドが多品目を短期間で市場投入できる構造だ。製品開発サイクルは3〜6か月と日本の1/3〜1/4にとどまり、トレンドへの追随が格段に速い。

アモーレパシフィックは2024年、初めて北米売上が中国売上を超えるという象徴的な成果を上げた [3]。2025年通期では連結売上4兆6,232億ウォン、営業利益3,680億ウォンと2019年以来6年ぶりの最高水準を達成し、「北米・EMEA・インド・中東」という4戦略市場での積極展開を継続している [3]。グローバルプレミアムスキンケアのトップ3入りと海外売上比率70%超を中長期目標に掲げる。

韓国コスメのもう一つの強みは「ハルリュウ(韓流)」との相乗効果だ。BTS・BLACKPINK等のK-ポップアーティスト、「愛の不時着」「梨泰院クラス」等のK-ドラマが世界規模の文化的プラットフォームとして機能し、ブランドとのコラボレーション広告は数千万人規模のリーチを持つ。Laneige(ラニージュ)のリップスリーピングマスクがTikTokで数億回再生されるような「コンテンツ主導の口コミ拡散」は、広告費対効果の面で圧倒的優位を生んでいる。

インディーブランドの多様性も重要だ。Cosrx・Medicube・Beauty of Joseon・Some By Miなどの中小ブランドが海外直販・Amazonなどを通じて世界市場に直接アクセスし、国全体のビューティー産業の底上げに寄与している。2024年の対米輸出は前年比増と堅調で、対日輸出も拡大傾向にある [4]。

K-Beautyのリスクと課題

K-Beautyが抱える主要リスクの第一は、ハルリュウへの文化的依存だ。韓流コンテンツの人気が地政学的要因や文化トレンドの変化で弱まれば、需要の基盤が揺らぐ可能性がある。とくに中国では2017年のTHAAD(高高度迎撃ミサイルシステム)導入問題以降、K-Beautyの市場シェアが大幅に低下した苦い教訓がある。

第二は、「デュープ(dupe)」文化によるブランド価値の毀損だ。韓国コスメが人気を博した製品は、類似成分・類似パッケージで低価格の模倣品が中国・東南アジアで量産される。この構造はK-Beauty全体のプレミアムポジショニングを維持する上での課題だ。

第三は中国国内における競合激化だ。中国コスメブランドが急速に力をつける中、アモーレパシフィックも中国市場の「構造的正常化(採算是正)」という言葉で事業縮小方向の再編を進めている [3]。かつて成長エンジンだった中国市場からの脱却は、J-Beautyと同様の課題を抱えていることを示す。

両者の比較

主要指標による横並び

比較項目J-Beauty(日本)K-Beauty(韓国)
2024年輸出規模4,229億円(2021年ピーク比▲38%)102億ドル(前年比+20.6%)
最大輸出市場中国(過去)→アジア太平洋米国・中国・日本・ASEAN
製品開発サイクル18〜24か月3〜6か月
主力価格帯中〜高価格帯プレステージ入門〜中価格帯、インディー多様
ブランド戦略科学的エビデンス訴求文化的影響力・トレンド追随
代表企業資生堂・花王・コーセー・POLAアモーレパシフィック・LG H&H
北米市場シェア未開拓(拡大模索中)拡大中(アモーレ米国>中国へ)

適合ケースと市場の棲み分け

両者が特に競合するのは、購買力を持ちながらも「本物志向」と「最新トレンド」両方を求める30〜40代アジア女性消費者だ。この層においてJ-Beautyは「信頼性・長期使用」のポジショニングが強く、K-Beautyは「鮮度・コスパ・SNS映え」で訴求する。

東南アジア市場(タイ・ベトナム・インドネシア・フィリピン)は現在、K-BeautyとJ-Beautyの最大の激戦区となっている。ここでは韓国の文化的影響力が特に強く、若年層を中心にK-Beautyが優位だ。一方、高付加価値のアンチエイジング製品や日焼け止め(SPF関連)では日本製品が科学的評価で優れている。アジアの新興中産階級が変える消費トレンドも参照されたい。

中東・中央アジアでは日本製品の「高品質・安心感」訴求が有効で、ハラール対応製品の充実を進める花王などが浸透を図っている。欧米では両国ともニッチ市場に留まるが、ソウル由来のインディーブランドがニューヨーク・ロンドンのバイヤーに評価される例が増えている。

第三の変数:Cビューティーの台頭

この2国間比較に第三の変数として重みを増しているのが中国系ビューティーブランド(Cビューティー)だ。完美日记(Perfect Diary)・珀莱雅(Proya)・华熙生物(Bloomage Biotech、ヒアルロン酸原料の最大手)などは、自国の世界最大消費市場を足場に急成長し、品質と価格競争力を同時に高めつつある。

Cビューティーの戦略は「科学的成分×コスパ×KOL(Key Opinion Leader)マーケティング」の組み合わせだ。Douyinのライブコマースとインフルエンサー経済を最大限に活用し、数分で数億円の売上を達成する手法は日本・韓国のブランドが容易に模倣できないデジタルマーケティング力を示している。

中国国外への展開はまだ限定的だが、東南アジアのTikTok Shop経由での浸透が加速している。価格面では日本・韓国の同品質競合品より30〜50%低い水準の製品を投入でき、価格感度の高い市場では脅威になり得る。特に「ネシア・タイ・ベトナムの若年層」というJ/K-Beautyの獲得目標と完全に重なる顧客層でCビューティーが伸びている。

Newscoda の見方

本サイトとして注目するのは、日本コスメの輸出急落が一時的な中国景気サイクルの影響だけでなく、「化粧品のソフトパワー」における構造的な地位低下を示している可能性だ。観光や映画・音楽とは異なり、化粧品は日常消費財であるため、文化的な親近感が購買行動に直接結びつきやすい。韓国が2016年以降のK-ポップグローバル展開と並行してコスメ輸出を拡大させた軌跡は、文化的影響力と産業輸出の相関を実証している。

Newscodaとして別視点で強調したいのは、J-Beauty vs K-Beautyという構図が「ブランド国籍の争い」以上に「開発モデルの争い」であるという点だ。ODMエコシステムを持つ韓国と垂直統合型の日本では、同じ「アジア系化粧品」でも製品イノベーションのスピードが根本的に異なる。日本勢が成熟市場の高付加価値ポジショニングに留まる戦略を取るか、それともODM活用や合弁でトレンド対応速度を上げるかは、中長期的な産業競争力を左右する問いだ。

今後6〜12か月で観察すべき変数:

  • 資生堂の2025年通期業績と中国事業再編の進捗(売却・縮小か再投資か)
  • アモーレパシフィックの北米・インド・中東での展開速度と採算化
  • 中国越境ECにおけるCビューティーシェアの対日韓比較推移
  • 花王「KATE」の海外展開売上寄与度の初期検証結果

まとめ

日本化粧品産業は輸出ピーク比38%減という厳しい現実に向き合いながら、戦略の再定義を迫られている。資生堂はプレステージ集中とEコマース拡大で収益力回復を図り、花王はCurel・KATEのグローバル展開で突破口を開こうとしている。一方、韓国のアモーレパシフィックは北米・EMEA市場での成長加速と6年ぶりの最高益更新で勢いを持続する。

日本勢にとっての鍵は、中国への過依存脱却と「東南アジア・中東・欧米」での独自ポジショニング確立にある。科学的信頼性という強みは本物であり、皮膚科学・素材技術での競争優位は維持されている。問われているのは、その強みを文化的影響力やデジタル対応スピードと組み合わせて市場に届ける仕組みを作れるかどうかだ。インバウンド消費の動向についても訪日インバウンド消費の構造変化で確認できる。

Sources

  1. [1]Shiseido Company 2024 Integrated Report
  2. [2]Kao Corporation Investor Relations — FY2025 Financial Results
  3. [3]AmorePacific Group 2025 Earnings Summary
  4. [4]CosmeticsDesign-Asia: K-beauty 2024 exports to US, Japan rise while China declines
  5. [5]Cosmetics Business: Kao Corporation sales rise in 2025 as J-Beauty giant plots global expansion
  6. [6]Dewsia: Japan Beauty Exports Fell 38%

よくある質問

J-BeautyとK-Beautyの最大の違いは何か?
J-Beautyは保湿・紫外線対策・エイジングケアを中心とした科学的スキンケアを重視し、製品開発サイクルが18〜24か月と長い。K-Beautyはトレンドドリブンで製品サイクルが3〜6か月と短く、K-ポップやK-ドラマとの連動で文化的需要を生み出す「加算型」の美容提案が特徴だ。価格帯もK-Beautyの方が幅広く、インディーブランドの多様性が際立つ。
日本の化粧品輸出はなぜ2021年をピークに急減したのか?
最大要因は中国市場への過度な依存だ。2021年のピーク形成には訪日インバウンド消費の期待と越境EC需要が重なったが、中国景気の減速と消費マインドの変化で2022年以降に急落した。日本化粧品協会データでは中国が2020年以降に輸出の過半を占める最大市場となっており、単一市場集中リスクが顕在化した格好だ。
中国系ビューティー(Cビューティー)は日韓コスメの脅威になるか?
国内市場では既に脅威となっている。完美日记(Perfect Diary)や珀莱雅(Proya)は自国シェアを急拡大し、TikTok/Douyinを通じて東南アジアでも認知度が上昇している。価格面でも日韓の同水準品より30〜50%安い製品を投入しており、コスト重視の消費者層から浸食が始まりつつある。

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